市川尚吾の蔵出し

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2008-04-17

[]新風舎ミステリの紹介 07:04

「CRITICA」3号のためにまとめたのだが、読者の需要がそれほど見込めないので、こちらにアップすることにした。ちなみに26字×21行の二段組にしたときに、一ページに二本のレビューがちょうど収まる計算で字数を揃えてある。

新風舎ミステリの紹介 市川尚吾

 今年一月、自費出版&協力出版の大手「新風舎」が倒産した。新風舎は例年ミステリの刊行点数が多く、その中には(自費出版本にしては)秀作といえる本もそれなりにあったのだが、倒産とともに在庫のほとんどが(内容の優劣に関係なく一律に)裁断処分されてしまったようだ。

 ここでは「二十一世紀に出版された」「新風舎刊のミステリ系の小説」で「私が読んだ本」の情報をまとめておこうと思う。条件に該当するのは全部で四十二作品。今では入手困難な本ばかりだと思うが、ともあれ一度は世に出た作品である。読んだ人間がそのあらすじや評価を残しておくことは――ジャンルの資産としてその手の情報が蓄積されることには――一定の意義があると考えている。いや、むしろ各作品が入手困難となった今だからこそ、その手の情報は貴重なものとして、誰かが書き残しておく必要があるだろう。

 作品評価はAからDの四段階にした。評価がAの作品に関しては、機会があればぜひ読んでいただきたい。

『楽土を出づ』江東うゆう C

 四六版ソフトカバー 一八〇〇円+税 2003.04.25

 江東烏有が大学四年のとき、憧れていた院生の白井未央が姿を消した。彼女の家には他に、双子の姉とその夫も住んでいたが、三人揃っていなくなってしまったのだ。未央は失踪前に告げていた。私が二人を殺したのであり、その死体は、烏有が卒論で取り上げた王燦の二編の詩(「下泉人」と「楽土」)にヒントを得た場所に隠したのだと。二年後、法律事務所に就職した烏有は白井姉妹の叔母から依頼を受け、三人がいなくなった家を調査するが、地下室の鉄扉は閉ざされたままだった。本当に未央が姉夫婦を殺したのだろうか。楽土とはどこか。そして未央は今どこに。

 第十二回(02年)鮎川哲也賞最終候補作。というわけで本格ミステリとしてある程度の出来を期待したのだが、序盤から独りよがりな展開が続く。大学講師を含む一家三人が行方不明になったというのに、誰も問題にしない不自然さ。事務員を不当解雇する弁護士。登場人物の誰も彼もが理に適わぬ行動をとる。密室の謎もビックリ。この作品の中では、それはまあ素敵な(読者の思いもよらない)物理法則が適用されるのだった。無理筋にもほどがある。

『ヒポクラテスの柩』ヘンリー川邉 A

 文庫版 七九〇円+税 2004.06.05

 聖ザビエル病院は移築に伴って最新のデータベース・システム「タイタン」を導入した。電子カルテの活用による外来の受付・診療・検査・処方箋・会計の迅速化で、旧病院の「3時間待ちで診療3分」という患者への負担を軽減するのが目的だった。しかしトラブルが発生。プロセスが予定の八倍に膨れ上がり、システムがパニック状態(稼働率百パーセント)になる。運用責任者の甲斐は、システムを受付と診療だけに絞って何とかパニック状態を脱する。しかしその裏で誘拐事件が発生していた。事件はさらに連続殺人へと発展していって……。

 第四十一回(95年)江戸川乱歩賞最終候補作。医療システムという題材で、コンピュータ業界と病院業界、二つの専門世界を見せてくれる。事件もテンポよく発生。警察組織内の葛藤なども手抜かりなく描かれている。けっこう長いが冗長さも感じられない。面白いことは面白い。ただし多視点の採用でノベライズふうな仕上がりになっている点が気になった。登場人物の描き方も通り一遍な感じで。まさに「乱歩賞まであと一歩」という出来。悪くない。

『パーフェクト・ルーム』吉田龍二 D

 四六版ハードカバー 一三〇〇円+税 2006.02.28

 十メートル四方の部屋。鉄扉は固く施錠され、壁には窓がひとつもない。記憶を無くした「僕」はその部屋で目覚めた。電気ガス水道が通っており、バストイレキッチンは完備。一年分は優にある保存食料の他、プランターでは野菜も育てられている。床下収納にはその他にも様々な生活用品があり、消耗品も充分にある。そしてカーテンで仕切られた一画には二十歳前後の少女がいた。贅沢さえ望まなければ長い間ここで生きていけるパーフェクト・ルーム。でもいったい誰が何のために……。

 序盤は、主人公が手探りで状況を把握している裏で、作者も手探りで展開を探している感じ。出口のない部屋+記憶喪失の主人公というのは、誰もがパッと思いつく設定であって、数多くの人がすでに挑戦して敗退しているのに、まだ書かれていない傑作オチがそうそうあるはずもない。当然のごとく敗退。小説家としての力量も想像力もないわけではない。次回はちゃんと脳内で完結させてから、これは面白いと思った話を書くようにしてもらいたいなと。そうすれば今後、面白いものを書ける可能性はあると思う。

『トゥデイ』安田賢司 A

 四六版ソフトカバー 一五〇〇円+税 2006.06.23

 神陵高校演劇部員の柳田良哉にとって、九月二十日は運命の日だった。高校演劇の地区予選の舞台後、来栖桃子が自分と国島啓太のどちらを選ぶか、結果が出るのが今日なのだ。しかし謎の女が「トゥデイ」と囁き、桃子は轢き逃げ事故に遭ってしまう。最悪の一日だった。翌朝、良哉は再び二十日の朝を迎える。どうやらこの「リプレイ現象」を経験しているのは、自分と啓太だけのようだった……。

 時間ループもののSFサスペンス。部活の描写が活き活きとしている。そのために長くなっている気もするが、これだけ読ませるのだからそれで良いのだ。主人公と親友と彼女という三角関係も、リアルな痛さに満ちていてかなり読ませる。この筆力にまず感心。SFものとして見てもなかなか練り込まれていて、実はおかしなところも散見されるのだが、致命的なミスはないように思う。ただ一点、個人的には、良哉と啓太が少しキレすぎるのが気になった。自暴自棄になったときに暴れる人間がいてもいいけど、主人公とそのライバルには、もう少し思慮深い人間であってほしかったというか。ともあれ一気読みの面白さはある。

『ポワロック氏の事件簿 まぼろしのロッセリーニ鉄道』

 大岩正幸 A

 A5版ハードカバー 一二〇〇円+税 2004.11.15

 しあわせの谷で起きた三つの事件を、ホテル在住の謎の探偵ポワロック・モーロウ氏が解決するというシリーズ。ワトスン役はホテルで受付嬢をしている猫のマリリン。ねずみのチャーチくんも大活躍。以下の三編を収録。

「おいしそうな絵画」高名な画家のデリ氏がホテルを訪れると、突然の停電。その間にロビーに飾られていたデリ氏の抽象画が、野菜の絵とすり替えられてしまう……。

「ひそひそ林の口笛」ひそひそ林のそばに住むノーウェアマン氏は、伝説の口笛を聞いて一躍有名人に。一方、レストランでは材料不足でメニューが変更になり……。

「まぼろしのロッセリーニ鉄道」エミリオ駅長が聞いた話では、レオーニ氏の祖先が土地を売らなかったため、その路線はまぼろしとなったはず。しかし曽祖父の日記にはロッセリーニ鉄道を汽車が走る情景が描かれていた……。

 童話世界特有のガジェットが本格ミステリの手掛かりとして機能しているのが特徴的。一種の異世界本格作品。本格の手筋をちゃんと理解している点が評価できる。

『ポワロック氏の事件簿 迷宮のレティーシア』

 大岩正幸 A

 A5版ハードカバー 一四〇〇円+税 2006.06.24

 シリーズ第二弾。以下の3編を収録。

「天空の使者」町で一番高いキャンディ塔にはラフィングバードが住んでいる。一方、町の噂になっているのは天空の使者。夜空に浮かぶ丸い物体が目撃されて……。

「踊り岩の謎」トンガリ山で集団神隠し事件発生。作業員二十人はどこに消えたのか……。

「迷宮のレティーシア」コックのマルセルさんが幽霊に取り憑かれてしまった。レティーシアというその女性は、三十年前に上映された映画のヒロイン。強風のせいでフィルムからヒロインが吹き飛ばされてしまったのだ。マルセルさんを救出するためには、三十年前の映画で予定されていたクライマックスシーンを再現しなければならない……。

 相変わらず伏線の張り方がうまい。別作品に伏線が張られていたりする。その他に、手品的なトリックがあり、クイーンばりのロジックもある。とにかく児童書だからといってあなどれないのがこのシリーズ。次は第三弾か、あるいは大人向けのミステリか。期待はふくらむ。

『ぼくらの町ミステリーロード・チョコ少女の亡霊』

 たかのけんいち C

 四六版ソフトカバー 九五〇円+税 2006.04.24

 東小に転校してきた五年生の二階堂太一は、夜の公園でチョコ少女に出会った。Tシャツの背中には血文字が。西小の元同級生たちの間でも問題は起きていた。体力自慢のスガオによると、ピアノ美少女のかなえちゃんが行方不明だそうだ。頭脳派のこうすけも仲間に入れて、三人は公園に行く。木登りおばばの予言。図書館でチョコ少女の正体を調べる。二年前に育児放棄で死亡したゆみちゃん六歳が該当する。白い洋館を訪ねた三人は死体を発見する……。

 第一回福永令三児童文学賞受賞作。児童書だが、少女の亡霊が登場した背景には、父親の家出と後に残された母親による育児放棄という、現実的な社会問題が用意されているのが異色。少女とおばばの二人がそれぞれどんな能力を持っているのか、何をしたいのか、ハッキリした説明がないのが難点。その場その場でキャッチーな場面を考えました、それを繋ぎ合わせてとりあえず一本の話にしました、という程度の筋書きである。場当たり的な展開のサスペンスホラーといったところ。残念ながら本格味は皆無。

『ルート246』藤村いずみ B

 四六版ソフトカバー 一四〇〇円+税 2006.09.24

 学生時代の親友に裏切られ、恋人には全財産を巻き上げられ、上司にはめられて失職した元経済アナリストの倉田梨り子。十五年前に失踪した父親は伝説の詐欺師だった。梨り子はマダム・リリーとなり、父親の元仲間とチームを組んで、習熟した信用詐欺を応用した「仕返しビジネス」を始める。連作短編集。以下の七編が収録されている。

「グリフト・センス」事務所開設に至る前日譚。

「ミッキー・フィン」浮気と買物依存症の二件。

「テア・アップ」審美歯科医に利用された女の復讐。

「ウィーケスト・リンク」会社の情報横流し犯を捜せ。

「ジャンプ、ジャンプ、ジャンプ」教育ママの落とし穴。

「パック・イット・イン」高校時代の友人のために。

「コンフィデンス・ゲーム」発明対価を奪ってやる。

 最初の四話までは「ミステリマガジン」掲載で、残り三編は書き下ろし。コンゲーム小説に仕返しビジネスを絡めた設定が新機軸。勧善懲悪の構造がしっかりしており、各編とも危なげない出来。詐欺の手口は教科書的なものが多いが、よく調べたねという感じで評価はできる。

『ぼくらの町ミステリーロード・ビーストの牙』

 たかのけんいち C

 四六版ソフトカバー 九五〇円+税 2006.09.25

 言の葉町の中央公園の森に何かがいる。こうすけの飼い犬パッチが散歩中に襲われた。学校の鶏舎を襲ったのもそいつだ。木登りおばばは「優しい顔をした鬼」だと言う。太一たちはそいつを「ビースト」と名付けた。公園の森は業者に売られようとしている。町長が率いる視察団が森を訪れたとき、そいつはついに人間に手を掛けた。ビーストと人間の戦いが始まる。動物と意思疎通ができるジャングル娘・栗山愛奈も加勢する。彼女の祖父は元大学の先生で森の生態系に詳しい。河原で電気もガスもない生活を送る栗山家の二人。太一はアイナに惹かれ始めるが……。

 シリーズ第一弾をあれだけ酷評したわりには、第二弾も惰性で読んでしまったのだった。どうでもいい話。物語を書くにあたって、独自性をもっと盛り込むべきなのでは。いや、読物として成立しているし、悪くはないと思う。酷評するほどではないと考えを改めた。でも、この作者独自のアイデアというのが何ら盛られていないから、やっぱり読んでいて「どうでもいい」と思ってしまうのだ。

『恋の殺意』紗山京子 D

 四六版ソフトカバー 一一〇〇円+税 2006.10.25

 静岡県内にチェーン展開するスーパーまるびしの島田店は毎年ゴールデンウイークに社員旅行を敢行。今年も五月三日にパートタイマーも含めて総勢八十八名が二泊三日の旅程で沖縄に旅立った。ホテルに一泊して翌朝、石貝礼子の刺殺体が発見される。野宮新一は店長の娘で十七歳の春山あきと二人で素人探偵を買って出る……。

 何が書きたかったのかわからない。全一〇九ページ中、三六ページ目で犯人の名前を明記しているので驚いた。犯人が誰かという謎で読ませるつもりもないらしい。殺人事件が起きているのに自由行動を許して第二、第三の犯行を招いてしまう警察。連続殺人が起きているのに観光を楽しんでしまう社員たち。原稿用紙換算で一五〇枚ほどの薄さだが、登場人物の固有名詞がわんさか出てくる。全部で四十人近くがフルネームで登場。でも活躍するのは数人。作者と年齢も近く、登場のしかたが主人公っぽかった山野涼子でさえ、まったく活躍しない。しかし最後でなぜか探偵コンビと同席し、女性社員の憧れの的の野宮から付き合ってほしいと言われるが断って話が終了。なんじゃそりゃ。

『怪盗ゴースト 呪われた首飾り』きざきかおる C

 四六版ソフトカバー 九五〇円+税 2006.10.25

 怪盗ゴーストが発明ドクターと骨白鳥シロスケの助力を得て、幽霊に依頼された品物を盗む。警察に予告状を送る正統派の怪盗スタイル。収録作は以下の四編。

「聖夜に響く天使の鐘事件」依頼者は鐘に頭をぶつけて事故死したシスター。教会から天使の鐘を盗み出す。

「怒りの貴婦人事件」依頼者は画家の元恋人。別な女性宛の手紙を見て自暴自棄になり事故死を遂げた。彼女の依頼で美術館から肖像画を盗み出すとそこに真実が。

「雨の夜の遊園地事件」少女の霊が依頼人。遊園地の乗物に乗るだけでいい。満足した少女の霊は、小学校の体育館で少年と旅立とうとする。待ってくれ。君は生霊だ。

「呪われた首飾り事件」大金持ちのお屋敷が舞台。獲物を横取りされた怪盗ゴーストは、警部と協力し、地下洞窟で鬼たちと対決するのだった。

 発明ドクターと骨白鳥が万能すぎて、そんなのがアリなら何だってできちゃうじゃん、ということで知的興奮はゼロ。もっと知恵を絞って難題をクリアする怪盗の話なら、少しは興味を惹かれるんだけどなあ。工夫がなさすぎる。

『A』伊達宮豊 A

 四六版ソフトカバー 一二〇〇円+税 2007.01.09

 九六年夏。平凡な主婦・岡野優子のもとに掛かってきた一本の電話。フリーライターの田所と名乗る男は、夫の直道が十三歳のときに人を殺した可能性があると告げた。二十七年前、福島県の農村で六歳の男児が殺害されバラバラにされた事件。当時十三歳だった加害少年は更正して名前も変え、今は法曹関係の仕事をしているらしい。しかし優秀な弁護士として評判の夫が、そんな過去を持っているはずがない。一笑に付した優子だが、それから八年後。中学三年生になった一人息子の大樹の様子がおかしい……。

 少年犯罪のその後をテーマにした作品。加害者の人権が完璧に守られたケースを想定して、過去が現在に投げかける波紋はどんなものか、その一例を、想像力を駆使して描いた力作である。デリケートな題材を扱いつつも、筆致をコントロールし、極端な意見に与せず、淡々と話を進めてゆく手際の良さは、ただ者ではない。こんなのが転がっているからマイナー出版社の刊行物は侮れない。第二十六回新風舎出版賞フィクション部門奨励賞受賞作。これが奨励賞って。どんだけレベルが高いんだよ。

『ふたつの名前』松村比呂美 A

 四六版ハードカバー 一二〇〇円+税 2007.02.15

 波多野保奈美は二十代半ばのキャリアウーマン。母の鏡台に隠されていた葉書は、実父の姉からのものだった。四歳のときに失踪した実父のことが知りたい。保奈美は義父に内緒で伯母に会いに行く。波多野家の秘密を封じていたパンドラの匣が、それをきっかけに蓋を開けてしまうことになろうとは……。

 平穏に見える家庭は、実は大きな秘密を抱えていた――というわけでDVがテーマ。序盤から中盤にかけて読んでいる間はずっと、これはぜったい後味の悪い話にしかならないと思っていたけど、こんなふうに落とすこともできるんだと感心。それも中盤における視点の切り替えがあったからで、そのあたり、作者の計算が充分に行き届いていることが窺われる。嫌な人間を出したら良い人間も出すという感じで、読物としてのバランス感覚も良い。主人公を高齢者向け結婚相談所の所員に設定したのもマル。登場する高齢者の人たちがみんな個性的だったり魅力的だったりしているのも、感心させられたところ。ドメスティックサスペンスの良作である。

『埋められた匣』日向遼 A

 四六版ハードカバー 一九〇〇円+税 2007.04.15

 取り壊し予定の表参道同潤会アパートに住むフリーライターの三村立人。図書館から借りた本に、男衾貴史という人の図書カードと謎の紙片がはさまっていた。男衾家を訪ねると、本人は三年前に失踪したと息子の貴一が言う。謎の紙片は徳川埋蔵金の隠し場所の暗号だという。立人は新聞記者をしている兄から、三年前に全裸で発見された記憶喪失男の話を聞く。さらに男衾貴史の作業靴と免許証が、三年前に建ったビルの補修中に発見されるが……。

 まずはプロローグで、陸橋飛び降りを目撃する尾行車、社長失踪、コインロッカー毒ガス事件という三つの断章が示される。本編が始まって、社長失踪のほうはすぐに出てくるが、残りの二つがしばらく出てこない。それが埋蔵金探しとどう繋がるのか、あるいは他の断章とどう繋がってくるのか、興味を持たせる形になっている。序盤の郷土史関係の薀蓄はもっと刈り込んでもいいし、幻覚キノコの手掛かりは使い方に無理がある等、欠点もあるのだが、肝心の宝探しの部分が良かったので高評価。暗号がただの換字式ではなく、子持ち暗号になっていたのがグッド。

『鉄砲はわらう』飯島一次 A

 四六版ソフトカバー 一二〇〇円+税 2007.04.15

 明治維新後、三河島の捕方だった鉄砲の弥八親分が、引退後に島崎に語って聞かせた捕物話。岡本綺堂の『半七捕物帳』のフォーマットを真似つつ、迷探偵ものに仕上げた連作集。以下の四話が収録されている。

「餡久殺し」菓子屋の若旦那が殺され、新妻が川に身投げして行方不明になる。弥八は遊び人の金蔵を疑うが……。

「真説宇都谷峠」河竹新七(黙阿弥)に招待された弥八。生まれて初めて見た芝居。そこで珍推理を披露する……。

「ねずみとり」鼠小僧を捕まえたのは弥八だった。その裏には年増女との実らぬ恋があった……。

「もうひとりの黄門」水戸の御老公が野良仕事の格好のまま屋敷から消えた。その真相とは……。

 これは面白い。解説の野崎六助も引き合いに出しているが、ロバート・L・フィッシュ『シュロック・ホームズ』シリーズと同じで、迷探偵のボケ倒しという趣向に挑んだ連作ミステリである。唯一、これは作者ではなく編集者の責任なのだが、解説のアレを帯に使うのはネタバレになっていて、それは良くないと思う。

『ディアレスト ~君に捧ぐM~』秋生めぐむ B

 文庫版 六〇〇円+税 2007.03.10

 天川学園という擁護施設出身の高校二年生、天川戒と赤羽律香の二人が、学園創設者で宝石商の青山光陽が生前に残した暗号を解くために、山中の屋敷を訪れる。中庭を挟む四つの辺にそれぞれ客室が三部屋あり、各室には黄道十二宮の名前がついていて、それぞれの星座の守護宝石がドアを飾っている。ひとつの暗号を解いたと思ったら、その解読文が指定する場所からまた次の暗号文が出てくる。その繰り返し。黄道十二宮と宝石に関する知識を駆使して、二人は宝物を見つけることができるか。

 文庫本で一一一ページという薄さ。基本的に善人ばかりで感動させようという話作りなので、ケッと思うのだが、それはそれとして、ミステリ的には暗号尽くしの趣向で、短めの長編をそれで何とか持たせているのは、まずまず頑張ったねという感じ。各暗号のレベルは実はそんなに高くないが、量的な部分でカバーしている印象。ただし最後のラスボス的な暗号は、自由度がかなり低いので、そのぶん難度は少し高いと判定。文章はそんなに良くも悪くもないレベルだけど視点の処理がイマイチか。

『あなたはだぁれ? 迷宮回廊譚』水分キング C

 文庫版 六〇〇円+税 2007.03.05

 短編集。以下の4編が収録されている。

「あなたはだあれ?」二〇七二年十月、未来都市で連続爆破事件が起きていた。DNA解析の結果、被害者と思われていたの三人が、某大国がテロ対策として開発したクローン人間爆弾の子孫だったと判明。そして……。

「終末の二人」コウジは動物保護Gメン。恋人のリツコはその活動に矛盾を感じる。別れを告げて友達とタスマニアに旅行するリツコ。しかし……。

「天国への反抗」監察医の川名は、医務院に運ばれてきた自殺者二人の遺体に共通点を発見する。聖痕のある二人はどちらもニューカレドニアに旅行していた。現地に飛んだ川名は信じられない体験をする……。

「石画の塔」ふと入店した塔のような店。エスカレーターがそのまま陳列棚になっている。途中で引き返そうとしたが下りエスカレーターが逆回転して……。

 文庫本で一一〇ページという薄さ。これはイマイチ。各編ともプロットが適当で、行き当たりばったりで書かれている感じ。読み終わっても「だから何?」と思うばかり。

『光の道標』西山東吾 C

 文庫版 六五〇円+税 2007.03.30

 短編集。以下の2編を収録。

「光の道標」男に裏切られ富士の樹海に死にに来た谷口真知子。末期癌で死ににきた橋爪太郎と出会い、二人で樹海を後にする。金沢にある橋爪の家で生活を始めた二人。一方、まりあ探偵事務所の成沢は、真知子を裏切った男を調査するよう依頼を受ける。事態は大きく動き、真知子は再び富士の樹海を訪れるのだが……。

「ハーモニカ」小池恵子という女性が行方不明になる。まりあ探偵事務所の山野麻耶が知り合った女性で、ハーモニカを吹くのが趣味。転落車両が谷底から見つかるが、現場にはおかしな点がいくつかあった。東京に出張した麻耶が多摩川べりを散歩中に、ハーモニカを吹く女児を発見。そのハーモニカは小池恵子のものと同じに見えた……。

 ミステリ部分がご都合主義全開でどうもいただけない。偶然の多用が目に余る。あと視点が変わって同じ内容が語られるシーンは、もっと省略のテクニックを使って語ってもらえればと。ただし小説技術はしっかりしていて、表題作の自殺者の心理などもよく描けていると思う。

『函館探偵物語』永倉順一 B

 文庫版 六〇〇円 2007.03.15

 短編集。最初の二編が函館の探偵を主人公にしたハードボイルド連作で、残り二編が独立した短編という構成。

「Jの悲劇」家出したニートの一人息子を捜索するよう依頼を受けた探偵。海岸で見つかった死体は、口いっぱいにキャベツを頬張り、手にはキュウリを握っていた……。

「さらば醜き男よ」豪邸のベッドで発見された若い女性の全裸死体。参議院議員とトップレスバーの踊り子と、元プロレスラーが織りなす人間模様……。

「祝福されたこの世界」聖夜に息子一家を迎えた老夫婦。お爺さんは家族に冒険譚を披露する……。

「怪奇現象ファイル」怪奇実話のパロディふうホラ話。未確認飛行肉、人体自然発火現象の二本立て。

 富離探偵のシリーズ二編は、プロットも文体もきっちりとハードボイルドになっている。パロディの要素を中途半端に取り入れて安っぽく仕上がっているのが、何だか勿体ない感じ。三話目、四話目は、こういう小説も書けるんだよと腕自慢しているような作品。テクニックは充分に認められる。あとは何を書くかだ。次に期待したい。

『きつね装束殺人事件』七滝雅孝 B

 文庫版 六〇〇円+税 2007.04.15

 王子の北町CATVに勤務する貝塚聡美は、大晦日の夜に行われる狐の行列を取材していた。午前零時過ぎに祭礼の人ごみの中で男が刺殺される。被害者は高校時代から不良として有名な男。事件を捜査するのは本庁の溜池主任と所轄署の仲原巡査。死体発見時のVTRを撮影していた関係で、貝塚聡美は仲原刑事と親しくなる。犯人は狐装束を隠れ蓑にしたのではないか。「北とぴあ」の劇団スタッフと役者も狐装束に身を包んでいたが、あるいは劇団関係者が抜け出して犯行に及んだのかもしれない……。

 冒頭の場面でいきなり萎える。状況がよくわからない。こんな感じで全編進むとしたら辛いと思ったが、その先はまずまずの出来で、普通に読めたし普通に楽しめた。でも事件のポイントとなるアリバイトリックに無理がある。ミステリ部分が不出来なミステリに存在理由があるかどうかわからないけど、読物としてはそんなに悪くない。エンディングの最後の段落などは、さりげないようでいて、普通はなかなかこんなふうにふわりと終われないものだし。だから印象は決して悪くはないんだよなあ。

『感傷旅行』加茂三郎 B

 四六版ハードカバー 一五〇〇円+税 2007.03.25

 八王子に住む六十三歳の倉石哲次はその日、近在の泉田夫妻と一緒にハイキングを楽しんだ。マンションに帰宅すると、会社員時代の旧友から連絡が入っていた。白河に住む知人が亡くなったので、通夜に出席し、そのあと一緒に一杯やらないかという誘いである。倉石は旅行ついでに東北地方の知人を訪ねることにして、白河、仙台、山形と列車で回るが、各地で危険な目に遭う。一方、八王子では、泉田夫妻の死体が発見されていた。捜査を担当する警視庁の椿響子警部は、ハイキングに同道していた倉石が何かを目撃していたのではないかと考える……。

 これはけっこう面白かった。なぜ泉田夫妻が殺され、倉石が狙われるのか、という謎が、ページを捲る手を止めさせない。物語は全体に冗長で、しかも個々のエピソードが総じて暗い。妻が死んだ、元同僚が病死した、その娘が二十年以上前に水死したが実はいじめだったらしい、等々。そんなエピソードは本筋にはまったく関係ないのだが、でもその冗長さも暗さもなぜだか許せてしまう。六十三歳の主人公がさりげなくカッコイイのだ。

『招待状』赤城由良 D

 四六版ハードカバー 2007.06.25

 招待状で呼び集められた八人が、主催者からデスゲームを強制される。勝利者に与えられるのは、天才プログラマー谷伸治が残した「狂気」という名のディスク。まずは第一ラウンド。八人が拳銃を手に取り、好きな相手を撃つが、実砲と空砲がある。二人が脱落。生き残った人物は第二の部屋へ。通路で一人が脱落する。残り五人に課せられた課題。出口のない部屋から一時間以内に脱出せよ。仕掛けを見破って辿り着いた場所とは……。

 薄っぺらくてスカスカ。原稿用紙換算で五十枚ほどか。何の説明もないまま始まって、誰が何をしているかよくわからないまま話が進んで、何の意味もカタルシスもないまま唐突に終わるという、デスゲーム小説の完全なできそこない。そもそも銃を一本二本って、単位違ってますから。日本語がおかしいところは他にもいろいろあって。まあ自費出版は自己満足の世界だから、何を出版しても構わないっちゃ構わないんだけど。山田悠介を読んで自分にも書けると思って書いたのだろうか。いや山田悠介すら読んでいるかどうかわからんぞこれは。

『夜明けの風につつまれて』星花ゆめの C

 文庫版 五五〇円+税 2007.06.05

 神戸の高校三年生の朝木邦子は、妹の満江が自殺したことでショックを受けていたが、さらに大ファンだった原哲也の訃報を知り、さらに妹の遺品からその二人が付き合っていたことを知って、大きなショックを受ける。告別式の会場で、原哲也のライバルだった歌手のロバート秋山と、哲也のマネージャーだった相川美雄と知り合う。次に上京したとき、公園で助けた高校生は、原哲也の死体を発見した春川淳一だった。淳一と邦子は協力して事件の謎を解こうと約束するのだが……。

 原稿用紙換算で80枚程度の分量だが、その割りには話を詰め込みすぎ。各場面の日時場所がよくわからない。情景描写や人物描写がほとんどない。場面ごとの緩急や溜めがない。要するに説明文と会話文だけで構成された粗筋みたいな感じ。その粗筋もご都合主義のオンパレード。実は黒幕でした、実は悪人でした、実は善人でした、調査員でした、刺客でした等々、何でもアリ。小説を書く文章力はないが粗筋を書く文章力はある。ミステリを書く構築力はないが読めないほどではない。でもなあ、という感じ。

『手繰り寄せられぬ赤い組紐(いと)』武内麗 B

 文庫版 五五〇円+税 2007.06.05

 広島から上京して三年、三十歳になる赤居繰夢。お気に入りの赤組紐招き猫ストラップのついた携帯電話を自室で失くしてから、隔週土曜夜に幽霊が出るようになる。この部屋は元々は親友の佐竹結志の部屋だった。四年前に結志は恋人を交通事故で亡くしていた。室維正美。そして次に登場したとき、幽霊はあの携帯を持っていた。メールが通じるようになる。繰夢は結志を部屋に招くが……。

 二週間に一度だけ死んだ恋人と携帯メールができる。そんなありがちな設定から始まったものの、その後の展開は予想外の方向に。陰惨というか何というか。いや、最終的にはハッピーエンドになっているんだけど、その中間部分に感動的でない事件があり、ハッピーエンドふうのラストも近親姦的な気色の悪さを孕んでいて、その歪みが結果的に面白い。いろいろなご都合主義的展開も、組紐の運命的なものと思えば、それはそれでアリかなと思ったし。ちなみに本格要素はゼロ。ミステリ要素もSF要素もかなり薄い。ファンタジック変な話というかそんな感じ。文章は特に上手くはないけどそんなに下手でもないレベル。

『私の愛した天使』新村理亜子 B

 文庫版 七〇〇円+税 2007.06.05

 昭和三十二年夏。鹿児島の山村が舞台。主人公は小学六年生の鷹山裕二。ヒロインは岡の上の幽霊屋敷に母親とともに東京から静養に来た美少女の増口あや。少女が村に来てから変事が次々に起こる。森の中で発見された変死体の首筋には二つの噛み痕があった。その母親が後追い自殺を遂げる。夜間外出が禁止されるが、裕二は虫取りのために夜の森に入り、同級生と鉢合わせする。翌朝、裕二は再び森に行き、そこで同級生の死体を発見してしまう……。

 その時代のその土地の匂いが感じられる小説。文章力も描写力もなかなか。物語自体はベタというか何というか、田舎の村に吸血鬼現るというそのまんまで、新味はゼロなんだけど、とにかく安心して読めるのが強み。田舎の男児が都会から来た美少女に対して抱くであろう、まぶしいのと同時に気恥ずかしいような屈折した想いが、通奏低音としてしっかりと描かれていて、そこに相次ぐ変死が襲って不穏な空気に包まれている寒村の描写が重なる。結末の処理はやや甘いが、娯楽小説としては及第点だろう。原稿用紙換算で三〇〇枚弱といった分量があり読み応えは充分。

『怪談・夏物語』靫島碧 B

 四六版ソフトカバー 2007.07.05

 小学六年生の伊那さとこには、クラスで親しい女子の仲間が六人いたが、GWに上宮通という美少女が転校してきたことで八人のグループになる。語られるのは、八人で過ごした夏休みのちょっと不思議なエピソードの数々。人に懐かない犬の小次郎が柔和になったり、史跡調査で暑さに参っているときに涼しい小川を発見したり、花火大会に来られない友人に花火を見せることができたり。夏が去り、十月は出雲のほうで忙しいからといって転校していった上宮通からは、また来年の夏よろしくという手紙が来る。

 少女を主人公にした話は他にもあるけど、女子グループを(肯定的に)取り上げた作品は珍しい。現代っ子の小六女子グループを活写した怖くない怪談というか、少し幻想味のある児童文学というか。小学生にとって夢と現実のはざまはこんな感じなのかなと思わせる。長編なのか連作短編集なのかもよくわからないし、幽霊譚としてちゃんと落ちているのか落ちていないのかわからない話もあるけど、不思議と読中&読後感はほんわかしていて悪くない。不思議系のほっこり児童文学。

『白狼村妖怪伝』彬原希勇 B

 文庫版 八〇〇円+税 2007.07.05

 美崎探偵事務所の四人が訪れたのは、山梨県の白狼村。バイトの大学生が発狂するという事件が起きたのだ。一日目の調査を終えた翌朝、事件が起こる。旅館の向いにある玉島食堂脇の小屋で、変死体が発見されたのだ。自殺か事故か、ライフル銃で頭部が吹き飛んだ無残な死体だった。村長たちと一緒に招かれた犬城家の屋敷での昼食会では、廊下で獣の気配を感じ、夜になって招待客の一人が山中で首無し死体となって発見される。さらに刺殺事件、放火と事件は続く。村に伝わる妖怪伝説の真相とは……。

 ジャンル的にはど真ん中。本格ミステリっぽい舞台で本格ミステリっぽい事件が起こる。でも肝心のトリックが大したことない。第一のトリックもしょぼいし、第二のトリックはいくら何でも無理筋。本格ミステリのようなものを書こうという意欲は感じたけど、結果は残念だったね、みたいな感じ。好きな雰囲気もあるし読みやすいし、読物としてはそんなに悪くないと思う。ミステリ部分のトリックや伏線がもっとちゃんとしていれば、かなり高い評価を与えられる作風ではある。次作に期待したい。

『The Blue Sky』大森愛美 D

 四六版ハードカバー 一三〇〇円+税 2007.06.25

 西暦二〇六五年。女子高生の山下美菜は図書館で勉強をしていたが、そこに突然の大揺れが襲う。街は壊滅状態。美菜はヘリで救出され核シェルターに運ばれた。彼女の祖母の山下唯は小説家であり、作品を通じて地球環境の大切さを訴えていたので、生き残りの定員に選ばれていたが既に死亡。美菜は祖母の代理で救出されたのだ。シェルターは百メートル離れて二つあり、それぞれ定員が十名。二つのシェルターには物資が別々に格納されていたので、一日一回誰かがライフガードを着て物資を運ぶ必要がある。しかし月日の経過とともに外の環境は悪化していった……。

 ツッコミどころが山ほどある。ふたつのシェルターをなぜ百メートルも離して建てたのか。しかも片方に水だけ、もう片方に食糧だけという貯蔵状況にしておいたのは、バカとしか言いようがない。そうなってたと言われても、読者は納得しないでしょ。そもそも何が起きたのよ。環境を大切にしないとこうなるって言われても、どうなったのかがわからないんじゃねえ。ただラストが、夢オチかと一瞬思わせてそうじゃないという趣向で、そこは面白かった。

『ヴィーナスのおとしもの』渚和哉 B

 四六版ソフトカバー 一五〇〇円+税 2007.06.25

 家電ケーブル製作会社に勤めるバツイチ男の関根仁史。五年前に別れた元妻の河野香織から突然会社に届いた謎の封書。自宅マンションには不審者が出没。元妻の手紙は、同封の二センチ角の金属チップをしばらく預っていてくれという依頼。そして始まった仁義なき争奪戦。関根はその中でチップの正体を知る。カナダの永久凍土から発見された金属板の一部。香織は板に刻まれた象形文字の解読担当だったが、その金属板の一部が日本に持ち込まれたのだ。

 新風舎出版賞奨励賞を受賞して出版されたものらしいのだが、本体にも帯にも受賞の宣伝文はナシ。でも内容はさすが受賞作。大枠はわりとありがちだが、中盤で主人公が早々にブツを奪われてしまったあたりからは、独自性の勝負になる。マクガフィンである金属チップの正体は、争奪戦と釣り合うだけの重み付けに成功している。金属板発見前後の科学的な説明がそれっぽいので、話としてちゃんと成立している印象。軍事利用の案にしても潜水艦とか兵士直結とかそれっぽくて説得力がある。リーダビリティもあるし、うん、けっこう面白かったぞ。

『殺しはゲームだ』日下部建 C

 文庫版 七〇〇円+税2007.08.05

 短編集。以下の4編を収録。

「殺しはゲームだ」のろまの龍と呼ばれた男が林業の会社に就職。宴会のコンパニオンが惨殺される。女性囮捜査員がヒッチハイカーとして龍の車に乗る。林道に逃げた龍は女性捜査官を殺そうとするが……。

「脊梁の山・猪合戦」舞台はたった七戸からなる寒村。猪に畑を荒され、反撃のため銃を借りに行ったのは、戦国時代に肥後菊池家の跡目争いを演じた相手だった……。

「地に埋もれしもの」遺跡発掘現場の事務所に寝ていた記憶喪失の若い女性。その正体とは……。

「風渡る阿蘇の高原にて」牧場の若者とUFO記事専門のおじさんライター。阿蘇で出会った二人が、牧場から逃げた牛を追う。発見した牛は出産中だった……。

 七十五歳のお爺ちゃん作家。しかも素人。文章はしっかりしているが、筋がとりとめない。だから何だ、という話が四つ。特に二話目は昭和五十年代に戦国時代の暮らしをしている村があるという設定で、いくら何でもそれはないだろうと思いつつ、結局最後まで読まされてしまった。

『黄昏が嘘つき』伊空ルカ C

 文庫版 六〇〇円+税 2007.04.05

 洋館の書斎で発見した原稿用紙。目が覚めると3Cの教室だった。片岡千歳に起されたところ。隣クラスの佐久間健介に告白され、大好きな兄が週末に帰ってくるという連絡が入る。幸せに浸って眠りに就く。目覚めると3Cの教室。片岡千歳に起された。佐久間健介に告白され週末には兄が帰省。幸せに眠り、目覚めると3Cの教室。試しに違うセリフを言ってみると、千歳との会話が噛み合わない。作家が言う。幸せな夢から覚めなければいい。いいえ、私は先生を連れてここから出るわ……。

 三十年前の少女漫画のような世界。あるいはひきこもりが夢見る半径5メートルの世界。語られている内容は凡庸だけど、それを語る言葉は非凡というか。乙女チックな一人称だが、言葉を選ぶ詩的センスには優れたものがある。才能はある。だからこそ、描いている世界の幼さが気になってしまう。半径50キロぐらいの現実を見て、その上で読者をもてなすことを意識すれば、もっと良いものが書けそうな気がするのだが。まあ、自費出版本であれば、自己陶酔のための創作というのもアリかなとも思うけど。

『死に値する愛撫が肘掛け椅子に固定され』芦塚 C

 文庫版 六〇〇円+税 2006.12.25

 大学一年の未波大樹は夢を見た。肘掛け椅子に縛り付けられている自分。灰色の部屋。換気扇から差す光。目の前の闇から少女が立ち上がる……。大樹は自分の見た夢を絵に描いた。あの少女は、六歳のときから六年間も植物状態が続いている妹の由祢ではないか。主治医の西村助教授もまた、由祢の中身がそこにあると思い込む。そして大樹は西村助教授の実験を受けることに……。

 二十二歳が書いたにしてはちゃんとしている感じ。普通に読めるという意味で。ただ登場人物のほとんどが、性別年齢に関係なく、それぞれ特定の人物に異常なほどの執着を示しているのが、設定としてかなり不自然というか、気持ちが悪いというか。初老の教授が中年の助教授に欲情したり、少年が叔父に欲情したり、叔父が幼い姪に執着したり。どれひとつとしてマトモな愛情がない。ドロドロしている。あと実験の仕組みとか原理とかについては何も説明がなく、二人の身体をコードで繋いで何かしてるなというイメージだけで済ませていたりする部分は、けっこう雑な処理で、そのへんは説得力に欠ける感じ。

『超能力鑑定士』TAKUMI A

 文庫版 八〇〇円+税2007.08.25

 超能力を持つがゆえに不自由な生活をしてきた主人公の前に、趣味で超能力鑑定士をしている合橋大学心理学科教授の福笑博士が登場し、鑑定結果を報告するという連作短編集。以下の3編が収録されている。

「恐怖の創り方」中三のクラス担任をしている田中先生。恐怖を実体化してしまう能力の持主。給食のシチューに画鋲が入っていたら嫌だと思ってしまうと、そのとおりに画鋲が入っている……。

「時を駈ける――ダッシュ」吉本由紀は時間跳躍の超能力を持っている。気がつくと間一日が飛んでいる。三日間記憶がない。一週間。一ヵ月。だんだん間隔が広がっている。それ以外でも波乱万丈の人生を送っていたが……。

「永遠の十五分」黒崎進悟は福笑と同じ大学の数学教授。彼は訓練によって五感を研ぎ澄まし、時空間を自分の中に取り込むことができる。まずは十五分の時間跳躍実験から始めよう……。

 これは良作。筆力もあるし各編のネタも練りこまれている。プロの作品と比較しても勝てるぐらい充分に面白い。

『北警察監房「夢」殺人事件』明野五郎 D

 文庫版 六五〇円+税2006.12.05

 北警察署の監房看守係の明野行道は、仮眠中に不穏な夢を見る。山中誠次という男が監房内で人を殺し、明野にも凶刃を向けるというものだった。これは実在する山中という男からの何らかのメッセージだ。そう思った明野は山中を探し始める。情報をもたらしたのは江上嘉男という男。山中の出てくる夢を見ただろう。実は自分も受信者だ。あれは俺の兄貴分の山中がメッセージを送っているのだ。山中は父を殺されたが、その背後に岡田組がいたと知り、岡田組長を殺そうとして返り討ちにあったらしい。メッセージが途絶している。協力してくれ。その夜、明野は再び山中の夢を見る……。

 警察官が定年退職後に書いた小説。六十四歳。老人だからか話の進め方が散漫で、誤字も多い。一人称が「俺」から「わし」になっていたり、三人称だった話が途中から一人称になっていたりして、アマチュアモード全開。江上は明野に会うためにわざわざ捕まらなくても普通に会いにゆけば良かったのでは。超能力があるならもっと早く使えばいいのに。というわけでツッコミどころも満載。

『コウとスイ 永遠をかける赤い砂』真嶋ひすい C

 文庫版 七〇〇円+税2006.12.10

 探偵の鬼島潮と息子のコウが暮らす家に、橘スイという少女が引き取られてくる。彼女は母親が首を刎ねられるのを目撃し、母はそのまま消えてしまったと証言。首を刎ねたのも自分だという。鬼島潮は十八歳のときに洋館で起きた殺人事件を幻視していた。人形の少女がいる。その少女の父親が剣を持っている。潮を逃がそうとした母親が首を刎ねられる。その母親が今度は相手を刺し殺す……。その幻想の少女人形こそ、橘スイの母親の橘コウだと感じたので、潮は彼女を引き取ったのである。そして橘家の裏の空地では、首を切断された女性の変死体が見つかる。胴体は十八歳のままだったが、頭部は白骨化していた……。

 あとがきも含めて文章が全体に生硬。登場人物がみんな年齢が十八の倍数であり、同じような出来事が繰り返されてわけがわからない。観念的なレベルでの謎とか解決とかを見せられても。それの何がいけないかというと――読者に娯楽を提供する(もてなす)のが小説家の使命だとすれば、観念遊びを小説化するというのは、自分が娯楽で遊んでいる姿を読者にただ見せているだけだから。

『母子感染』はやしれいこ C

 文庫版 六〇〇円+税2006.11.30

 大学三年生の桐田暁は突然の母の訃報を受ける。自殺の三日前、母は暁の恋人について「彼女はだめ」と謎の言葉を残していた。津村瑶子という名前しか知らなかったはずなのに。バイト仲間の久保と、行きつけの居酒屋のオヤジに相談すると、津村瑶子の親に心当たりがあったのではという推測。深川の料亭で女将をしている母方の祖母、あーちゃんに聞くと、母の高校時代に家庭教師をしていた男子学生が津村という苗字だったという。さらに実家にいる妹の加奈からも連絡があり、探偵社から母に宛てた津村瑶子の身上調査報告書が見つかったという。暁は意を決して、大企業の重役をしている津村俊介氏に面会する。そして母が結婚の一週間前に津村氏と再会し、関係を持ったという話を聞き出したのだった……。

 あらすじを読んだだけで想像していた、まさにそのとおりの話だった。文章力は抜群で、だから筋立ては定番でもこれはこれでアリだと思うけど、できればもうひと捻りふた捻りしてほしかった気がする。今さらこんなベタな話を書かれてもなあ。というわけで作品評価は低めに。

『血デ血ハ洗エズ』藤枝義幸 A

 文庫版 七〇〇円+税 2007.04.25

 大阪地検の有沢検事のもとで事務官をしていた見影文が副検事に昇進。初仕事で担当した被告は若い女性だった。母親と押し問答をしていた不審な男を押し倒したら昏倒。傷害事件として在宅起訴されたが、被害男性は意識回復後に病院を脱走している。一方、静岡地検沼津支部に転任した有沢検事は、三重県警の窪川刑事がメッタ刺しにされ車ごと駿河湾に沈められるという殺人事件を担当していた。続いて第二の事件が起きるが、その被害者こそ、見影文が担当する傷害事件の消えた被害者であると判明して……。

 八一年生まれと若いのに、実に達者。検察庁の仕組みとかちゃんと取材して書いている感じ。一部のご都合主義に目を瞑れば、非常に楽しめる。社会派リアルの作風で、しかもこの中編サイズの分量で、これだけのアイデアとトリックが盛り込まれていれば大満足。主人公の見影文の天然ボケという性格設定も、ほのぼのとした雰囲気を醸し出しているし、その彼女を有沢検事が「毒気がある」と評することによって、そのキャラにまた深みが出ているところなど、実にうまいと思う。タイトルもうまい。

『ブリーズ』田上雄基 D

 文庫版 六〇〇円+税 2007.09.05

 短編集。以下の二編を収録。

「ブリーズ」気がつくと出口のない部屋にいた小俣俊介。二十歳だが十八歳ごろからの記憶が曖昧。部屋には女性がもう一人いるがガラスで区切られている。自分の腹部に古い傷跡。思い出した。赤倉志穂。彼女と付き合い始めて二年目に僕はストーカーに襲われた。腹を刺されて……。

「エクスペリメント」小学六年生の津希は変な夢を見た。公園の夢。同級生の光也、琢、寛、未紅、美弥も同じ夢を見たという。公園に行くと白い粉が降ってきて意識が混濁する。目覚めると出口のない部屋にいた。壁を押すと隠れていたエレベーターが現れたが……。

 気がつくと見知らぬ部屋にいた、という設定は、小説を書いたことのない素人がまず最初に飛びつくんだけど、そこから先が行き当たりばったりでモノにならないという、ひとつのパターンを形成している。一話目はまさにその典型。そして二話目も途中からその展開になっていて、これには正直驚いた。もうちょっと考えて、これは面白いと思える話を作ってから書こうよ。

『これは匂う 新聞お楽事件帖(一)』拓跋珪 B

 文庫版 六八〇円+税 2007.08.05

 木挽町の桔梗屋という瓦版屋。主は藤兵衛で、その娘がお楽、その配下に吉兵衛、鈍さんらがいる。吉兵衛が持ち込んできたのは王子の随徳寺の話。廻船問屋の西海屋のつてで無住寺に住み着いたのは、京都大覚寺で修行を積んだという燐賀上人以下、納所坊主の明覚、小坊主の了念という三人。二朱という高い木戸銭を取るのに加持祈祷は大繁盛だという。加持祈祷のない仏滅の日、お楽と吉兵衛、鈍さんの三人で随徳寺に忍び込むと、燐賀上人と小坊主の二人が死んでいるのを発見。さらに納屋には南蛮文字の書かれた謎の木箱が……。

 去年のミステリーズ新人賞の最終選考作品に「新聞お楽事件帖」というのがあって、たぶんそれと同じシリーズの別作品。最終選考に残った作者だけあって、書きっぷりは達者。形になっている。でも意外性に欠ける。序盤を読んで読者の誰もが思うとおりの真相。中盤で坊主二人が殺されるという展開には意外性があったけど、でもそれだけではミステリとしては物足りない。読物としては悪くないんだけどね。もうちょっと先を読めない話にしてほしい。

『真夏のロサンゼルス』八坂諒治 D

 四六版ソフトカバー 一六〇〇円+税2007.08.25

 アメリカ西海岸のツアー客である雲井和也は、ユニバーサルスタジオ見学中に置き引きメキシコ人を撃退。運転手の薦めで入ったテネシィというクラブでエリチィという美女と意気投合し、マンションに招待されるが、シャワーを浴びて出てくると彼女はナイフで刺されていた。テーブルの裏と言い残して事切れる。見つけたのは小さな鍵。さらにバーバラという女性が近づいてきて、雲井はビバリーヒルズの豪邸に招かれる。バーバラはブティックの経営者であり、カズは店員のマリアンと関係を持つ。ドロシーが貸し金庫に隠していた五十万ドルの行方は……。

 いや驚いた。終盤、まさかそんなふうに展開するとは。といっても褒めているわけではない。登場人物一覧にある高野はほとんど活躍しないし、第一章はユニバーサルスタジオハリウッドの単なる見学レポートになっているし。主人公が美女にモテまくりなのはいいとしても、一人称で書き始めたのに、カズのいないシーンも三人称多視点で書いてしまうという自由さはどうか。カズがいるシーンでも主語が「カズは」になっていたりと混乱しまくり。

『みおつくし物語』鵜川正博 C

 文庫版 八〇〇円+税 2007.03.24

 大阪府警を舞台にした短編集。最初の三編は主人公が同じ名前だが、設定が違うので、別人と思って読むが吉。

「一本の黒い万年筆」昭和二六年。新米警官の鵜海は闇米の一斉摘発で一人の老婆を取り逃がすが……。

「追憶」古希を迎えた鵜海は喫茶店で警察時代の回想をする。特に歌劇団の寮の警備をしたことを……。

「追跡 犯人捕捉せよ」強盗殺人から数年後、専従捜査班の三人は、震災後の町を巡り、中華料理屋、パチンコ店、船員と、犯人の足取りを追ってゆく……。

「特命捜査 時効を阻止せよ」十四年前の強盗殺人事件の特命捜査を命じられた高松巡査部長。被害者の墓所に毎年花が供えられているというのだが……。

 読書家らしく文章はそこそこのレベル。今年七十六歳のお爺ちゃん作家だが、ずっと前から書いていたのを今年まとめたものらしく、老人特有のくどさとか不整理とかはあまり感じなかった。小説として書いているけど内容的にはノンフィクションに近く、著者が警察時代を回顧したものとしても読める。

『ヒポクラテス・クラブ』青柳青 A

 文庫版 八五〇円+税 2007.09.05

 高校生のクイズ大会に出場する夢を持って、二年生の鹿川幸彦が双月高校にクイズ同好会を設立し、仲間を勧誘する。気の弱い小栗、読書家の葉山ナツキ、テニス部を辞めてクイズに青春を賭けると決意した土方亜輪紗、三人の一年生が集まる。サッカー部エースの銀雀正志が名前を貸して同好会登録は完了。さらに不良の高槻サミと、女たらしの青崎倫太郎も同好会に入ることに。生徒会長との存続を賭けた校内対決を制して、念願のクイズ大会出場へ。六人で一チームという編成だが、メンバーは今は七人いる。最大のライバルは仲間だった……。

 クイズに賭けた青春のさわやかな物語。自分たちのことをことさら美化せず、クイズ知識など何の役にも立たない丸暗記だとわきまえた上で、それでも青春を賭けるに値するものだと言い切るクレバーな力強さがある。クラブ内のあれこれをクロニクル的に描いているのだが、エピソードの配置や選択などにも隙がない。最後にちょっとしたどんでん返し的なエピソードもあり、クイズ大会の本番は描かずに済ませるあたりの処理も良し。文句なしの良作。

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